とある不動産会社の主任さんのお話。
宇治市の方で、中古住宅の販売を預かっておりました。
売主様は、買い換えが目的で、この中古住宅が売れれば、次ぎの新築を購入するという内容だ。
しかし、なかなか売れず約1年間が過ぎており、次ぎの新築購入のお話も無くなりかけていた時に、
急に来店された30才台の男性が、<買いたいのだが、どうしたらいいの・・>と願ってもないお話をされた。
<これは、これは、・・どうぞ、どうぞ、ご説明します>と約1時間ほど、資金面の話から内容などをあらかたご説明して、申し込み書を記入してもらい、3日後に契約というトントン拍子で、話がまとまった。いきなりの来店からのお話の為、申込金や手付金などは契約時に支払って頂く話になった。
申し込み書から見ると、34才で、2才年下の奥さんと子供が2人の4人家族、大手自動車の販売営業をされており、年収は約600万円で、自己資金は500万円と内容は問題無しと判断した。
<では、3日後に当社事務所に来ます>と言い残しお帰りになられた。
主任は大層喜んだそうだ。1年も売れず売主との仲も険悪になりかけており、次ぎの新築の話も無くなりかけていた時だから余計に嬉しかった。
早速売主様に報告して、時間を空けてもらい、同時に次ぎの新築の契約もするという話でまとまった。
<有り難う、よくやってくれた感謝する>と売主様からもお褒めのお言葉を頂き、心から<やったっ>と万歳コールを叫んでいた自分が居た。
気がかりは、内覧もせず、家族の方の同意も得てないのにいいのかな・・・まっ、いいか契約後に見てもらえれば・・と嬉しさのあまり簡単に自分に言い聞かせてしまった。
そして2日間で全ての契約書関係を作成し、社印も捺印してもらい、段取りよくする為に先に売主様に署名捺印もしてもらった。
買い換えの新築の契約書も作成して、事前に打ち合わせしておりました間取りの変更も確認し、契約を待つだけと準備万端な体制で当日をまった。
契約当日になり、お約束は午前10時の予定だが、売主様は9時30分に奥様と二人で、早々とご来店頂き、買い主様の到着を待つ事になった。
約束の10時までの間、売り主様と楽しい雑談で、話が弾んでいた。<長かったけど主任さんの御陰で、目的の新築も購入出来そうで良かったよ。これからも末永く頼むね>信頼ができた瞬間でした。
が・・・
買い主様がご来店されません
10時20分・・・30分・・・
何か事故でもと思い、申し込み書の連絡先に電話をしてみたが、違う名前の方がでて<そんな人しらんないよ>の一言
えっ・・・
記載された仕事場にも電話してみる
<そのような人物はおりませんが・・>
えっえっ・・
和気藹々の空気がよどみ始めた瞬間でした。
売り主様にはお待ち頂き、主任は早々に記載された住所に車で向かった。
・・番地・・ あっここだ。
パン屋さんだった。
店に入り聞いてみると・・・<そんな方は居ませんが>
これは・・やはり・・・認めたく無い事実が刻一刻と頭に刻み込まれていく・・・
会社に連絡して、とりあえず帰社してみた。
顔を真っ赤にした売り主様が、立っておられ<どうするのかね・・んっ・・>
時間を空けて、新築の事を考え、荷物の整理の事まで考え、・・・これではね・・・
社長も巻き込み社員全員で謝罪して、何とかその場はお帰り頂く事にはなったが、帰り際に一言
<終わりだな・・・>
社長以下みんな言葉を失った瞬間だった・・・
・・・・
さぁぁ主任は大変で、社長からはボロクソに言われ、社員からもため息が聞こえ、社内での自分が失墜していくのがわかるというのも嫌なものだ。
<何で・・・あの買い主は全部・・嘘なのか>確認業務を怠った自分に責任は有るが、何の為に嘘をつくのか・・・何をしたかったのか・・いろいろな想定が頭の中を駆け回っている。
腹立たしさと失墜感が自分の居場所を無くしている感じがする。
今となっては、探しようも無い為諦めざるをえない。
その日の夕方に売り主様方に再度謝罪の訪問をしたのだが、玄関先でフロントアウト状態で、お会いもしてくれない・・・全てが終わった感じだ・・・
このまま帰る事になったが、家に帰っても今日から2日間ほど嫁さんが実家の祖父の看病の為、留守にする予定だった。
嫁さんにくだを巻くことも出来ないので、自宅近くの居酒屋で一人酒を飲みに行った。
2時間ほど飲み食いして、さぁ帰ろうと思うと・・あれっ・・・
<財布が無い・・>会社を出るとき持って出たはずなのに・・・
落としたのか・・
<えっい糞・・っ>
店が近所という事もあり後日に支払うという事で店を出て、歩いて家に帰った。
時間は12時を少し廻っていた。
トボトボ歩いていると、前から来たおっさんが乗った自転車とぶつかってしまいズボンが破かれてしまった。
おっさんは何も無かったかのように自転車に乗り直し、サァと走り去ってしまった。
最悪・・・何や今日は・・・本当っ・・・最悪・・・
気分的には滅亡の日に近い感じを受けながら家に着いた。
風呂は朝はいろ・・・とにかく布団に入って寝よ・・・
と考えながら玄関のカギを・・・
カギを・・・
カギが無い・・・
鞄の中にも・・・どこにも・・・
何で・・・
誰もいないのに・・・
何で・・・無いの・・
今晩どうなるの・・俺・・・
何で・・
うっ・・うぅ・・・
嫌っ・・嫌っ・・・・
・・・・・・・・
嫌だぁっ・・・